何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】



「どうかしたか?」

その時、天音の背後から、聞いた事のない若い男の声が聞こえた。
天音はびしょ濡れになったその顔を、その声の方へと向けた。
するとそこには、天音と同じ位の年の青年が立っていた。目は笑って細められていても大きい事がよくわかり、綺麗に整えられた短髪の黒髪は、清潔感が感じられる。

「あの、魚に…。」
「ハハハ。水跳ねられたのか。」

天音は見知らぬ男に向かって、恐る恐る答えた。すると彼は、天音の濡れた顔を見て、人懐っこい笑顔で笑った。

「うん。ねえ、この魚は何ていうの?」
「え…?」

天音は彼の笑顔に気をよくしたのか、持前の明るさと、人見知りしない性格で、何の躊躇もなく彼に普通に話しかけた。
彼がどんな人物なのかもわからないのに…。
そんな天音に、彼が戸惑いの表情を浮かべるのも無理はない。

「知ってる?この魚の名前。」
「……鯉だよ。」

天音は彼をじっと見て、首を傾けた。
すると彼は、戸惑いながらも、その魚の名前を教えてくれた。



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