何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
即位式はとどこおりなく行われ、人々は徐々に帰り始めていた。

「花火の演出なんて、珍しいことするんだな。」
「なんたって、即位式だからな。」

人々は満足気な表情を浮かべ、あんなに人がぎっしりだった広場から、人々が退却していく。

「待って…。」

そんな広場の一角から、消え入りそうな小さな声が聞こえた。

「えっ…?」

多くの人々が広場から帰ろうとしている中、そこにはいるはずのない、彼女の声が華子の耳に届いた。

「天音!?」

華子の裏返ってしまいそうな大きな声が、広場に響き渡った。華子は天音の姿を少し離れた所に見つけ、思わずその名を叫んだのだ。
彼女がここにいるはずなんてないのに…。

「待って、私まだ…。」

天音はフラフラとした足取りで、人並みとは反対の、天使教が登っていた階段の方へと進んでいく。

「ちょ、、どいてよ!!」

天音の方に行きたいが、人並が押し寄せて、中々前に進めない華子。
星羅も驚きながらも、天音の焦点の定まらない目を見て、普通ではない事を察した。

「ま…。」

天音はもうろうとした意識の中で、なぜかその階段へと手を伸ばした。

バタ

その瞬間、天音の身体は傾き、冷たいコンクリートへと打ち付けられた。

「あまねーーー!」

華子はその様子を目の当たりにし、再び叫んだ。

「どけや!!どけ!!天音!しっかりせい!!」

すると、どこからともなく、りんが人混みをかきわけ、天音のもとへと走って来た。幸いりんは、天音のすぐ近くに居たようだ。
天音を心配して集まって来た人々の前で、りんが天音を抱きかかえた。
天音の額には汗が光っており、伸ばした手は力が抜け、だらんと垂れていた。






「その手は簡単には届かないのにね…。」




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