何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「なんや、花火やないか…。びくりさせよって。」

りんもそうつぶやいて、ホッとした表情で空を見上げていた。

「誰が何のためにあげたのかしら?」

りんの隣で、女がポツリと意味深な事をさらりと告げてみせた。
彼女は未だ無表情でどこか掴みどころがなく、その感情は全く読めない。

「どういう、意味や?」
「さぁ?」

そしてそのまま彼女は立ち去ろうと、りんに背を向けた。

「姉ちゃん!待ち…。」

りんは思わず彼女を呼び止めた。
彼女は一体何者なのか気になって仕方ない。このままじゃ今夜は安眠さえできそうにない。そして、その名前さえもまだ知らない…。

「そうやって呼ばないでくれる?私にはかずさっていう名前があるのよ…。」

彼女は、まるでりんの心の中を読み取ったように、りんの方へと振り返って、自分の名を告げた。
姉ちゃんと呼ばれるのは、もううんざりだと言わんばかりの顔で。

「失礼。わいは、りんや。」

りんは、聞きっぱなしは失礼だと思い、自分の名を名乗った。
そしてかずさは、またフードを深くかぶり、そのまま去って行った。
りんは何も言わず、その背中だけをじっと凝視する。正直、即位式の内容など、もう覚えてもいない。

「この町は変なんばっかおるなー。」

りんが彼女背中が見えなくなった後に、ぼそりとその一言をこぼした。
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