私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 盗賊団は何事かと慌てふためいて、武器を手に取った。その直後に、宝物庫のドアを乱暴に蹴破り、白髪を血に染めた少年が現れた。
 少年の瞳は、怒りを帯び、そしてどこか、焦った様子だった。
「柚を返せ!」
 彼はそう叫び、
「アニキ!」
 少女は自分の居場所を知らせるために、必死になって叫び返した。

 宝物庫にいた盗賊団は、全部で二十人。
 大の大人が、少年を取り囲み、少年に向って一斉に武器を振り降ろした。だけど、その体を貫いて死んだのは、盗賊団の方だった。
 少年は、凶暴なほどの力で、武器を叩き折、盗賊団の体をその拳で貫いた。鮮血で細い体を染め上げ、彼はものの数分で、二十人全員を殺した。
 私はその場を動けなかった。
 恐怖で、ではない。
 その光景が、どこか現実味を帯びず、幻想的で美しかったから。
 人間が、しかも少年が、なんの武器も使わずに、二十人の大人を殺す。
 とても信じられず、けれど、心を奪われるような、圧倒的な暴力だった。
 呆然とする私に、少女と抱き合った彼が振り返った。
 私は思わず、懇願した。

「私も連れて行って下さい」
 すると彼は、まだ声変わりのない、あどけない声で告げた。
「ここの連中はもういないから、お前の好きなようにしろよ。お前はもう、自由だ」
 その口調はどこか、哀しげであった。
 彼の言うとおり、盗賊団は私が所属していた暗殺集団ごと、私を除いて全滅していた。
 私は喜び勇んで、彼らについて行った。
 そうして、山賊に入ってみると、意外な事がわかった。
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