私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
ヒーローのようにたくましく思えていた少年は、活発でも、凶暴でもなく、純朴だった。大人しく、素直、あの時の凶暴性とは間逆な少年だった。
一方で、ヒーローに守られる少女は、快活だった。良く遊び、良く食べ、良く笑う。そんな少女だった。
どちらも第一印象からして、正反対だったが、私は彼らと過ごせて幸せだった。
まるで、普通の子供のように振舞えることが、何より楽しかったのだ。
そして時は流れ、私が十三の時に、柚様に縁談話が持ち上がった。
カシラ――当時はまだ、剣之助様とお呼びしていた頃、山賊のカシラは、四十過ぎのむさ苦しい男が勤めていた。
柚様は、その男に嫁ぐことになった。
誰の目から見ても、仲睦まじい兄妹だった剣之助様と柚様は、複雑な心境であっただろう。
特に、周りが気にかけるほどに、柚様は塞ぎこんでいた。
私はお節介にも、彼がこの話をどう思っているのか聞き出しに行った。
それは、どこかしら確信があったからだ。
彼は、妹を異性として絶対に愛しているはずだと。
そして、柚様もまた、剣之助様を好きなはずだと。
だから私は、確かめに行った。
「剣之助様は、柚様を男性として愛していますか?」
私のストレートな問いに、彼は静かに頷いた。
でも、彼はそれを告げる気はないみたいだった。嫌がる事を無理に進める事は出来ない。しかし、このままでは双方のためにはならない。
柚様は結婚したくもないやつの嫁になってしまうし、彼だってそんな事は望まないはずだ。
私は、彼らのために何か出来ないかと、考えに考え、解決策を見つけた。
それは、実に元暗殺者らしい答えだった。
「カシラを暗殺しましょう」
彼は渋った。でも、私の再三の説得に応じた。ただ、彼は私の手を汚す事を許さなかった。
やるのなら、自分の手で、そうはっきりと言った。
祝言の前日、彼は寝ているカシラを殺した。
私の言った通りに、殺人に見えないように、病死に見せかけて。枕を頭の顔に押し当て、窒息死させた。
元々、心臓に病を抱えていたカシラの死は、誰に疑われることもなかった。
だけど一人だけ、感づいてしまった者がいた。