私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 * * *

 アニキが話し終えてから、暫く沈黙が続いた。
 私も、何も考える気にならなかった。

「手紙にはなんて?」

 月鵬さんが呟くように尋ねて、アニキを見据えた。
 アニキは、懐から巻物を三つ取り出した。
 それを月鵬さんに向って放り投げる。
 月鵬さんはそれを読んだ。
 
 鉄次さんも近寄って、一緒に読んでいたけど、私は読む気になれなかった。
 みんなが、私がアニキと呼んで驚いたり、亮さんが怒る理由がわかった。

 アニキっていう言葉は、特別なんだ。
 柚さんを連想する、思い出の言葉なんだ。

 私なんかが軽々しく、口にして良い物じゃなかった。
 亮さんが怒るのも無理はないよね。

(もう、呼ばないようにしよう……)

 そのうち、月鵬さんが声を上げて泣き出した。
 泣き終る頃には、彼女はどこか憑物が取れたように、スッキリとした顔つきをしていた。



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