私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

「私ね、今までずっと、思ってたの。死んだ人には適わないよなって。死んだ人って、良い思い出ばかり残ったり、もしくは反対に、自分がその人にしてやれなかった後悔ばかりが残って、良くも悪くも囚われるじゃない? だからね、いつまでも亮が柚様を好きなのはしょうがないのかなって思ってたの。私が亮と出会うよりも前に、亮は彼女を好きだったわけだしね。だけど、なんかね、なんていうのかな……」

 月鵬さんは言葉を選ぶように、少し考えて、私を見据えた。

「もういいかげん、すっきりしたくなったのね。言ってダメならしょうがない。哀しいけど、でも、前には進めると思うの。結果はどうあれね」

 私は、「そうですか」とだけ答えた。
 月鵬さんは笑って、私が帰れる日にちを告げて去っていった。
 結果はどうあれ……か。
 私は告白しないって決めた。
 しないで諦めようって決めた。

 だけど、私の決断は後ろ向きで、彼女の決断は前向きなように思えて、私はなんだか月鵬さんが羨ましかった。月鵬さんはキラキラと輝いて見えた。

 鬱々とした気分で、屋敷の中に入ると、ちょうど花野井さんが出かけるところだったらしく、玄関で遭遇した。

「おっ、よう。嬢ちゃん」

 明るい花野井さんの表情に、私はすこしだけ気まずくなりながら、「ただいま」と、挨拶をした。

「おかえり」

 花野井さんは太陽みたいに笑う。
 そのとき、上げた右腕に紅く光る物が見えた。

「あれ、それって」
「あ? ああ。これな、赤希石だ。ちょっと前に皇に――皇王子に貰ったんだよ」

 花野井さんは嬉しそうに赤希石のブレスレットを翳した。
 やっぱり、大切な甥っ子からの貰いものはなんであれ嬉しいんだろうな。

「嬢ちゃん、帰れる日、聞いたか?」
「はい」
「そうか」

 花野井さんは、少しだけ残念そうに呟いて、

「ま、帰っても達者でな」

 そう明るく告げて玄関の扉を開けた。
 振り返らずに、出て行く。
 その背は、どことなく弾んでいるように見えた。

「私が帰っても、寂しくないんだ……」

 誰もいなくなった玄関で、私はぽつりと呟いた。
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