私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 * * *

 目を覚ましてから、三日後。
 退院して、タクシーを待っていると、「一応、大事を取って、三日くらい学校休みましょうか?」と、お母さんが提案してきた。
 目覚めた時は気づかなかったけど、お母さんは、大分やつれていた。

「うん」

 私が頷くと、お母さんは笑った。

 家につくと、一気に懐かしさがこみ上げてきた。
 見慣れた玄関。嗅ぎ慣れた匂い。
 懐かしくて、嬉しくて、同時になんだか切ない気がした。
 自室に入ると、なんだか泣きたくなってしまった。
 ベッドに寝転ぶと、ふわっと自分の匂いを感じた。

「荷物の整理でもするか」

 私は抱きかかえていた風呂敷包みを持ち上げた。
 右手にはめたままのブレスレットがキラリと光る。

 風呂敷包みに入れた異世界からの持ち物は、お母さんが入院中に持って帰ろうとしたけど、自分で持って帰るからと止めた。

 着ていた着物も、看護婦さんがこの中に入れてくれたみたいだ。
 だけど、まだ一度も開いていない。

 なんだか、開くのが怖かった。
 怖いというよりは、憚られたと言った方が良いのかな。

「……よし!」

 私は、気合を入れて起き上がった。風呂敷包みに手をかける。

(なんだかちょっとドキドキする)

 風呂敷包みを開くと、感傷的な思いと同時に、嬉しさがこみ上げてきた。
目の前には、私が帰るときに着ていた岐附の着物。屋敷で着ていた着物や、安慈王子に貰った果物らしき物。葎王子の本。正妃様の綺麗なイヤリング。

「なんだか、懐かしいな。まだ三日くらいしか経ってないのに」

 私はそれぞれから貰った物を取り出して眺めた。
 色々な記憶が蘇ってきて、嬉しいような、哀しいような、懐かしいような、切ない気持ちになった。

 私は何気なく、着ていた着物を持ち上げた。
 そのときだ。

 着物の袖から、するりと何かが抜け落ちた。
 それは、床に転がり、広がった。
 巻物だった。

「どうして、こんな物が?」

 床にかがむと、抱きかかえていた着物に違和感を感じて、袖の中に手を突っ込んだ。すると、ざらっとした触感が指に当たる。引っ張り出してみた。
 手は二つの巻物を握っていた。

(どこかで、見たような気がする)

 私は、床に転がった巻物を拾い上げた。
 そこに書いてあったことは――。

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