私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
――― ―――
アニキ。元気ですか?
私は元気にやっています。
アニキと別れて、どれくらい経つんでしょうか?
この長い年月の間に、色んな事がありました。
私が、何故、あなたと皇龍団から去ったのか。
もう、許しを請うても良いかと思い、筆を取りました。どうか、私の罪を、許してください。
あの日の出来事は、あなたの罪ではありません。
あの頃、私は知ったのです。
あなたが、私との約束で人を殺さないがために、あなたが暴力を受けていた事。私のせいで、アニキは暴力を受けていたのに、それに気づかずにのうのうと暮らしていた。私は何てバカなんだと思いました。
そんな時です。
カシラが亡くなったと知らせが入ったのは。
私は何故か、直感的に、あなたがやったのではないかと思いました。それは、信頼していないとか、そういう事ではなく、私の希望だったように思います。
あの頃、私は、あなたが好きでした。
兄妹としてではなく、一人の男性として。
私は内心、期待を込めて訊ねました。
そして、あなたは頷いた。
私は、嬉しかったんです。
あなたも、私に恋情を抱いていてくれたのではないかと、そう思うとたまらずに、嬉しかった。
でも、同時に、浅ましいとも思いました。
兄に、好きな人に、人を殺させておいて、それを嬉しいと思うなんて。
自分がおぞましい生き物のように思えました。
私はそこで、気づいたんです。
今まで、私が自分の手を何一つ汚さずに生きてこられたのは、あなたが、私の分まで手を汚し、傷つき、世の中の不浄の全部を、背負ってくれていたからなんだって。
私は、ずるいやつだったんだって、気づいたんです。
私は、決心しました。
これからは、一人で生きて行こうって。
でもそれは、子供の、浅はかな考えだったのかも知れません。
だけど、これ以上、好きな人の迷惑にはなりたくありませんでした。
自立がしたかったんです。
もしも、アニキが私を好きでいてくれたんだとしても、私よりも似合う人がきっといるはずだし、何しろ、私達は異母兄弟とはいえ、血が繋がった兄妹です。
結ばれて良いはずがありません。
私はあの日、あなたにさよならをしました。
それでも何年かは、あなたが恋しくて、逢いたくて、泣きました。
ずっと、心をあなたが占めていました。
でも、この呪縛のような恋情から、解放してくれる人が現れました。
初めはあなたに似ていると思いましたが、全然そんな事はありませんでした。
その人は、すぐに謝るし、すぐに泣きます。
全然あなたとは違いました。
――― ――― ―――