私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
第四章・亮と鉄次

 屋敷で過ごす五日間はそれなりに充実していた。
 この屋敷は、外観は石壁に瓦屋根だけど、内装は中国ぽい。

 アニキいわく、こういう造りの家は殆どがそうなのだそうだ。
 一方で村民の家は、昔の日本のような家だった。かといって、爛のように茅葺屋根の家ではない。いわゆる、江戸時代の都心のような建物だった。
 そういう、日本式の家では履物を脱ぐけど、こういう石壁の家では寝る時以外は脱がないのだそう。

 寝具も、日本式の家(一般宅)と、こういう家(金持ち)は違うらしい。一般宅は畳の上に布団を敷くけど、ここはベッドだった。
 壁に埋め込まれたような造りの、やっぱり中国風なベッドだ。

 食事は美味しいし、村を散策するのも楽しかった。と言っても、村は商店のようなものは殆どなく、畑や田園ばかりだったけど、あまり田舎に行ったことがない私には新鮮だった。

 村の人達も良い人達で、行き会えば挨拶を交わした。
 農家の人はもんぺのような物を履いていたけど、それ以外の村人の女性の格好は、私が知っている着物の着方とはちょっと違っていた。

 襟の部分がフリルで、裾を肌蹴させて、その下にロングスカートが覗いている。月鵬さんと同じかっこうだ。
 男性は着物がわりと派手目な物が多く、内側は地味で、羽織を派手にして着ているようだった。

 今は秋なのでいないけど、夏はアニキのように素肌に一枚派手な着物を羽織るのが岐附流らしい。
 そういえば、アニキは寒くないのかな?
 もしかしたら身体強化能力があるから、普通の人より寒くないのかも知れない。

 この五日は、岐附の空気になれるのにも最適だったみたい。
 だけど、この五日間で残念なことも起きた。
 翼さんが一日だけ村で過ごして、すぐに美章に旅立って行ってしまったのだ。翼さんが旅立つ日、村の騎乗翼竜をアニキの権限で翼さんにあげて、旅の資金も渡していた。

 アニキが王都に戻ったら返済するって言ってたから、資金は軍から借りたみたい。
 岐附で爛のような事をしてくれるなよと、アニキが念を押すように言っていたので、やっぱり、アニキ達はかつあげモドキをした模様。
 旅の資金は、岐附の民に被害者を出さないためのものなんだろうな。

 アニキは護衛につけた三人の兵士にも頼んでいた。
 その中には、私をダチョウドラゴンに乗せてくれた兵士もいた。

「お前には要らないだろうが、道案内で連れて行け」ってアニキが言ってたから、護衛というよりは、本当に案内係なのかも知れない。
 去り際に、アニキが「これで貸し借りなしだな」って言ったら、翼さんが困ったように笑って、

「なしどころか、俺の方が貸しできちゃいましたよ。これじゃあ、ゆりちゃんを無理に連れて行くことは出来ないっすね。もちろんゆりちゃんが一緒に美章にきたいなら話は別っすけど」

 と言っていたので、アニキの賄賂がなかったら、もしかしたら美章に連れ去られていたかも知れない。なんてね。

 私は美章に興味はあったけど、丁重にお断りした。
 私の中で、クロちゃんの裏切りというか、本性というか、騙されていたことがやっぱりちょっと、尾を引いているんだ。

 なんだかんだで、一番酷いのはクロちゃんだもん。
 風間さんのことも、大分ショックではあるけれど……。
 そうして、翼さんはシンディを連れて村を後にした。

 それにしても、貸し借りってなんのことだろ?
 
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