私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
* * *
附都は、華やかだった。
時代劇で見るような江戸の町並みの中に、そこかしこに石造りの家が並んでいる。人通りも多く、全体的に活気がある。
町の入り口に関所があったけど、ほぼ素通りだった。
長蛇の列が出来ているのにも拘らず、三人はすたすたと歩いて行き、先頭の関所の前にいた番兵に何かを見せると、すぐに通してくれた。
割り込んだみたいで並んでいた人達には申し訳なかったけど、私も三人に続いて関所を通った。
街を見渡していると、ふとあることに気がついた。
ドラゴンを連れて歩いている人が、私達以外にいない。
(なんでだろう?)
でも、そういうものなのかな。
私は街を見回しながら、前を歩くアニキに声をかけた。
「どこに向かってるんですか?」
「とりあえす城だ。報告しなくちゃいけねぇからな」
振り返って、アニキは笑む。
私はお城の方向に目を向けた。
お城は街の中心にあって、地面を高くしてあるので、街の外れからでもよく見える。どうやら日本風の形のお城だけど、石壁と木材で造られているみたいだ。
「お城って、私も行って良いんですか?」
「お前が行かないでどうするんだよ。魔王なんだろ。見えないけどな」
「こーら! 亮!」
「……ふん!」
素朴な疑問をぶつけただけなのに、亮さんは攻め立てるように早口で、しかもぼそぼそと小声で文句を呟いた。
鉄次さんが叱ってくれたけど、亮さんは鼻を鳴らしてそっぽ向く。
本当に、何が気に入らないんだろう。
アニキって呼ぶことだったとしても、それはアニキが許可してくれたわけだし、私とアニキの間のことなんだから、亮さんに関係ないじゃない。っていうか、この人はそれ以前に私のことが気に食わないように思える。
だって、初対面から睨まれてたしね!
私がムッとしていると、アニキがそっと隣に来て顔を近づけて小声で耳打ちした。
「すまねぇな。あいつもあいつで、色々あんだよ。少しの間勘弁してやってくれ」
アニキが謝ってくれることじゃないと思うんだけど。
でも、心遣いが嬉しいから、ま、大目に見てやろう。
きっとこの先、そんなに顔を合わせることないだろうし。っていうか、そうあってくれなきゃ、私が困る!