私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 * * *

 それから、私達は世間話、というか、主に月鵬さんによる、アニキへの愚痴を語り合った。(と言っても、私は聞いてるだけだったけど)

「――でね、聞いてよ、ゆりちゃん」
「はいはい、聞いてますよ」

 私はうんうんと頷きながら、お菓子に手を伸ばす。
 月鵬さんは私のことをゆりちゃんと呼ぶようになって、話し方も砕けた。多分、今の感じが本当の月鵬さんなんだと思う。

「カシラったら、ホンット! 大事な事はなんにも言わないのよ! 側近の私の立場はなんなのよって話よ」
「うん」
「私ね、これでも参謀なのよ。山賊時代から、あれこれとサポートしてきたわけ。だけどね、情報がなきゃ参謀は何にも出来ないのよ。戦況を考えるにしても、政権争いにしても、情報こそが武器だってのに」

 月鵬さんは憤慨したようすで、腕を組んで、椅子にもたれかかった。

「重要な事に関しては、自分で抱え込みがちなのよね。カシラって。それが、かっこいいって思ってるのよ」
「でも、できる上司って愚痴らないイメージですけど?」
「できないわよ!」

 驚いたように言って、月鵬さんはムキになった。

「解読やら、雑事やらは、全部私に決めろって押し付けるような人よ? そういうどうでも良い事はベラベラ喋ったり、私に頼んだりするくせに、肝心な情報は漏らさないの。そういうところが気に入らないのよ!」

 その姿を見て、私はしみじみ思った。

「……月鵬さんって、アニキのこと好きなんですねぇ」
「はあ!?」

 唖然とした調子であんぐりと口を開く月鵬さんに、私は続けた。

「だって、自分に頼って欲しい。その人の色んな事を知りたいって、好きってことじゃないんですか?」

 月鵬さんは不満そうに押し黙った。そして、深いため息をつく。

「そうね。そういうこともあるんでしょう。でも、私に限ってそれはないわ」
「どうしてですか?」
「私は自分の能力をきちんと認めてもらいたい、発揮したいだけなのよ。彼の事は、上官としては尊敬してるわ。洞察力や勘の鋭さ、身体能力は私は及びもつかないから。人間としても、優しい人だし、面倒見もすごく良いわ。でもね、恋愛対象として好きになる事は、絶対にないわ」

 噛み締めるように言って、次の瞬間感情的に弾けた。

「だって、あの人、六人も奥さんいたのよ!? それどころか、6人もいて外に女作るような人よ!? いくら肝要な岐附だからってありえないわよ!」
「……そんなに酷かったんですか?」
「酷かった? 言っとくけど、過去形じゃないわよ。絶対にね。断言できるわ」

 きっぱりと言い放って、人差し指を前に突き出した。

「ゆりちゃんだって、その内知るようになるわよ。あの人の女癖と酒癖の悪さ!」

 月鵬さんの予言通り、私は後にアニキのとんでもない姿を目撃することになる。

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