私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 * * *

 町には一人では出てはいけないけれど、本殿以外のお城の中は歩き回ってもいいように言われているので、私はふらふらと散歩に出かけた。
 城下町を見渡しながら、石垣沿いを歩いていると、本殿へと続く坂から、誰かが下りてくるのが見えた。

「誰だろ?」

 その男の人は幾つもの風呂敷包みを抱えて、慌てて走ってきている。何気なくその人を見ていると、その人が私に気づいて、片手を挙げた。
 手をブンブンと大きく振り、私が振り替えすと、コッチへ来いと手招きをした。私は訝しがりながら、その人へ近づく。

 近くで見る彼は、端正な顔立ちをしていた。中世的な顔立ちで、二十代後半に見える。髪が長く、使用人が着るような服を着ていた。

 使用人は大体が同じ服を着ている。打掛は源氏車の模様が裾の方にある以外は模様がなく、着物の生地の色は様々。大体が派手なのが多い。内側の着物は白で統一されていて、袴はカルサンのように太ももの部分を膨らませている。ちなみに女性の使用人は、これに袴ではなくフレアスカートで、打掛の色は黒か紺の二種類しか見たことがない。

(お城で働いてる人かな?)
 でも、それにしちゃ、キレイな手をしている。
 使用人の人達は、アニキのところでもそうだけど、水仕事をすることも多いので、手が荒れてる人が多い。
 鈴音さんも、まだ若いのに、手は少し荒れている。

「娘さん、どこの貴族のお嬢さんか知らないが、少し匿ってくれないだろうか?」
「は?」
「そうじゃなかったら、城下町に下りる手伝いだけでも良いんだが」
「えっと……?」

「私を知らないわけじゃないだろう? 私の手伝いをしてくれるなら、それなりの礼はする。キミのお父さんの悪いようにもならないはずだ」
「えっと、父はおりませんが」
「え?」
「ちなみに、母も家族もおりません」

 この世界には、だけど。

「キミ、令嬢じゃないのかい?」
「はい」
「では何故、ここにいるんだい? 確か、将軍も三関も、娘さんはいないはずだ。あっ、花野井の奥さんかい?」
「いえ、花野井さんにはお世話になってますけど。そういうのじゃないです」

 思わず苦笑する。

「葎(リツ)様! 葎様、どこですか!?」

 突然、坂の上から誰かを呼ぶ金切り声が聞こえた。その途端、男性はびくっと肩を竦めて、私の腕を掴んだ。

「きたまえ!」
「あの? ちょっと!」

 男性は慌てながら、私を引っ張って、追われるようにアニキの屋敷へ向って走り出した。
 玄関のドアを彼が乱暴に開けると、短い悲鳴が上がった。
 鈴音さんがちょうど出ようとしたところで、彼女にぶつかりそうになったんだ。

「すまない!」

 男性は駆ける足を止めずに、首だけで振り返って謝り、鈴音さんは目を丸くして、固まっていたけど、すぐに廊下を曲がり姿が見えなくなった。
 中庭を突っ切って、廊下を渡り、適当な部屋の前でやっと止まった。
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