私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
第九章・花街

 私はあの後、数分ふらふらとさ迷って、ようやく人に出会う事ができて、本殿から脱出できた。
 屋敷に戻ると、アニキと月鵬さんと鉄次さんがいて、姿が見えなかった私を心配してくれていた。
 私は王子に呼ばれて、碧王にもお会いしたことを話した。だけど、アニキと皇王子を見かけたことは言わなかった。
 なんとなく言い出しづらかったし……。

 それから一ヶ月が経った頃だった。
 日が沈んでから、月鵬さんが尋ねてきた。
 私がちょうど玄関のそばの廊下を歩いていたときに、彼女はメイドさんに応対されていた。
 今まで夕食を一緒にしたことが何度かあったけど、だいたい鉄次さんも一緒だったから、夜に月鵬さんが一人で尋ねてくるのは、なんだか珍しい。

「どうなさったんですか?」
 声をかけると、月鵬さんは少し驚いて、
「カシラに用事があって」
「今、出かけてますよ」
アニキは、深夜まで飲んでくることが多い。
 夕食は一緒に摂ってくれるけど、その後こっそり飲みに行ってる。
 こっそりだと思ってるところが、可愛いのよね。
 バレてないと思ってるんだから。

 月鵬さんが言ってたアニキの酒癖の悪さというのは、今のところ見てない。アニキが帰ってくる頃には私はぐっすりと寝てるし、翌朝にはアニキはお酒なんて飲んでなかったみたいに、ケロッとしてる。っていうか、昼真っから飲んでたりもするけど。
 私が来たころは、朝っぱらから飲んでたけど、最近は朝飲むことはないみたいだ。

「飲みに行ったみたいですよ?」
「また……。分かったわ」
 月鵬さんは、呆れたようにため息をついて踵を返そうとした。
「あの!」
 私はそれを引き止める。
「はい?」
「アニキのとこに行くんですよね? だったら、私も連れてって下さい」
「え!?」

 月鵬さんは、びっくりして目を丸くした。
(アニキがどこに飲みに行ってるのか、前から興味があったんだよね)
 興味津々な目をする私を断りきれなかったのか、月鵬さんは苦笑を返した。
「じゃあ、行く?」
「はい!」
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