私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 * * *

「ふう、ふう」

 息苦しい。
 心臓の早鐘が治まらず、肩で息をする。
 私は、何者かに襲撃されて、押し倒された。
 その後、背中を殴られてもがいたところに、顔を蹴られて、どうやら意識を失ったらしい。
 気がついた時には、足と手が縛られていた。手は後ろ手にされ、口には猿轡が嵌められていて、声が出せない。
 そして、どこかに閉じ込められていた。
 多分、押入れの中だと思う。
 ぎゅうぎゅう積めにされていて、足が縛られていなくても動けそうになかった。
 押入れの隙間から、かろうじて外が見えたけど、真っ暗で手掛かりになりそうな物は見えない。

(――怖い!)

 どうしよう。
 どうしてこんな目に?
 私、どうなるんだろう?

(――誰か、助けて!)

『アニキ、助けて』

 弱々しく発した言葉は、猿轡に阻まれて、音声にならなかった。
 ぽつりと涙が流れると同時に、

「こんな時間になんのようだ?」
(――人の声!)

 私は閉じた瞳をぱっと見開いた。
 その声は少し遠くに聞こえた。
 多分、廊下からだ。

『助けて!』

 出したはずの大声は、またもや猿轡に阻まれた。
 それでも私は体を大きく揺すりながら、誰かに向けてサインを送った。
 そのたびに、頬と、背中がズキズキと痛んだけど、そんなことはどうでも良かった。

『助けて!』

 何度も猿轡に阻まれながら、私は必死に叫んだ。
 それが通じたのか、誰かが部屋へと入ってくる足音が聞こえた。
 ぼんやりとした明かりが部屋を照らす。
 隙間から見える位置にその人はいなかったけど、明かりに少しだけほっとした。
 
 私は、今度こそ叫びを声にしようと、鼻から息を大きく吸った。
 背中に痛みが走って、むせ返りそうになったけど、我慢して呼ぼうとした、その時、その人物が私の前に現れた。
 カンテラの明かりを灯しながらやってきたのは、アニキだった。
 そして、その後ろには鈴音さんがいた。
 私は思わず、吸い込んだ息をそのまま吐き出してしまった。

「それで、なんの用だ?」
「随分な言い方ですね」

 鈴音さんはにこりと笑んで、アニキに擦り寄った。
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