私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 * * *

 午前四時過ぎ。
 月鵬は、地下基地の一室で、眉間にシワを寄せていた。
 何かがおかしい気がする――。
 何がおかしいのかは分からなかったが、何かが引っかかっていた。
 鈴音は相変わらず何も話さない。
 どんな拷問を受けようとも、悲鳴を上げるだけで何も話そうとはしなかった。
 暗殺者としては見上げたものだが、面倒な相手だと月鵬はため息をついた。

 月鵬は拷問部屋へと出向いた。
 部屋の重苦しいドアを開けると、むせ返るような匂いがした。血の匂いと、排泄物の匂い。吐しゃ物はもちろんのこと、拷問によって生じる恐怖や、筋肉の緩み、虚脱感などで、失禁や脱糞をすることもある。
 鈴音はそこまではいってはいなかったが、嘔吐を繰り返していたようだ。
 血の匂いと硫黄臭さに、月鵬は眉を顰めた。

「まだ喋りませんか?」

 鞭を手に持ちながら、嫌悪感に震える花野井に尋ねる。

「喋るわけないじゃない。こんなのぬるいもの」

 花野井の変わりに答えたのは、鉄次だった。
 鉄次は呆れたように言って、腰掛けていた椅子から立ち上がった。

「代わるわよ」

 一言だけ言って、鉄次はナイフをポケットから取り出した。

「けんちゃん。貴方がこういう事が嫌いなのは分かるわ。でもね、やるときは徹底的にやらないと。どっちも苦しむわよ」

 花野井の肩に手を置いて、鉄次は拘束具をつけられた鈴音に近寄った。花野井は何も言わず、どこか空虚な瞳で鉄次の背を追いかけた。

「はかせて楽にしてあげるわね」

 慈愛に満ちた眼差しを鈴音に向ける鉄次に、月鵬は少し険のある声音で制止した。

「ナイフは止めて」
「何で?」

 怪訝に振り返った鉄次に、月鵬は冷静に告げる。
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