私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

「暗殺者にすぐに死ねる道具を近づけるのは危険よ。自殺されかねないわ」
「え~。あたし今までそんなヘマしたことないわよ」

 駄々を捏ねる鉄次を、月鵬は強くにらみつけた。

「はいはい。同業者のことは同業者が語るってね。言う事聞きますよ~」

 不貞腐れるように、鉄次はナイフをポケットにしまった。
 そこに、ドアを叩く音が響いた。
 
 ドアの隙間から顔を覗かせたのは、亮だった。
 亮は、悲惨な部屋の様子に心底不愉快そうに眉根を寄せた。兄とは違い、亮はスプラッタ系統が苦手だった。

 どうしたのぉ? と、鉄次が尋ねる前に、亮は、「知らせがあります」と告げて、三人を部屋から出した。
 拷問部屋の前の廊下で、亮が告げた。

「魔王には廉璃(レンリ)をつけました。通常の兵士と今交代したところです。部屋の前で見張りにつけています」
「分かった。悪りぃな、ご苦労だった」

 亮の報告に、花野井はねぎらいの言葉をかけ、月鵬が、「廉璃なら、すぐに知らせが入りますからね」と、会話に入った。

「で、廉璃の代わりは、誰だ?」
「今向っているのですが――」

 亮の言葉は最後まで月鵬の耳には届かなかった。
 そうだ、そうなのだ――! 月鵬は歓喜に湧いた。
 今までずっと引っかかっていたものが、取り払われた瞬間だった。
 月鵬は勢い良く拷問部屋のドアを開けた。
 その行動に驚きを隠せない一同を気にもせず、月鵬は鈴音に詰め寄る。

「あなた、囮ね?」

 月鵬の低声で、なおかつ確信を持った声音に、鈴音は僅かに肩を震わせた。
 その反応を月鵬は見逃さなかった。

「鉄次!」
「なあに?」

 月鵬の後を追って部屋に入っていた鉄次は、軽く返事を返した。月鵬は強めの口調で命令する。

「鈴音に、心魂眼(シンコンガン)を使いなさい」
「良いの?」
「ちょっと待――」

 思わぬ命令に喜び勇んだ鉄次に対し、月鵬を制止しようとした亮を、花野井が視線の直線上に割るように入って制止した。

「月鵬、何かあるんだな?」
「はい」

 確信を持って、強い瞳で頷く月鵬に、花野井は頷き返した。

「鉄次」

 呼ばれた鉄次は、軽く頷いて、
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