私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
「それにしても、よく無事だったなぁ」
豪の問いに、丹菜は苦笑した。
「あ、はい。僕は功歩軍を穴に落とした後、すぐに気絶して覚えてないんですけど、千時が近くに待機していてくれたみたいで、喰鳥竜に乗って森を抜けたみたいです。ちょっと敵兵に追われたらしいんですけど……」
それを聞いて、千時はろくから視線を逸らした。
そして、丹菜と豪にだけ聞こえるように耳打ちする。
「それさ、総指揮官殿の命令だよ。死んだら連れて帰らなくて良いから、生きてたら連れ帰ってきて――って」
三人は顔を見合わせた。
「総指揮官殿って、結構良い人なのかも知れないですね」
丹菜はろくに視線を送った。が、ろくは親切心や、丹菜を慮って言ったわけでは決してなかった。
丹菜の能力はこの先も使えるとふんでいたので、ぶっ倒れたまま、敵にトドメを刺されるのが惜しかったに過ぎない。
「大変です!」
そこに、空が慌てて駆け込んできた。
「功歩軍に、援軍が向っているようです!」
「……やっぱりね」
ろくは、ため息交じりに呟いた。
耳ざとく察知した翼は、訝りながら訊ねる。
「やっぱりとは?」
「獅庵で功歩軍と美章軍が戦ってるって聞いたからね。もしかしたら、獅庵の美章軍が負けていて、なおかつ功歩軍に死傷者がそんなにいない場合はこっちにくるかもなとは思ってたんだよ。もしくは、功歩軍が尻尾巻いて逃げ出すさいに、こっちの功歩軍の大敗ぶりを聞いていたら体裁を気にして援軍に来るかもなって」
(マジで?)
翼は空を見た。
空は、こくりと頷き、
「その通りです。後者のようです。ただ、功歩軍が撤退する理由は、美章軍の篭城が長引き、功歩軍の食料が尽きかけたからのようです。死傷者は残念ながらあまり多くはないようで、おそらく朝には、一万の軍がやってきます」
「ここにきて、一万かよ!」
翼は、うんざりといったように叫んだ。
「一日、二日で決着がつけば初結で供給が出来るし、青蹴に恩も売れる。そういう算段だろうね」
援軍が到着すれば、功歩軍は約一万六千もの大軍となる。
一方美章は約九千と、一万にも満たない。
賞杯ムードに湧いていた美章軍は、一気に落胆した。
鬱々とした空気が漂う中、ろくは甲高く手のひらを叩く。
「先手を打とう」
俯いていた一同はろくの明るい声に一斉に顔を上げた。
千時が呟くように戸惑うような声を上げた。しかし、その声はどこか期待が混じっていた。
「先手ってどんな?」
「捕虜数名、連れてきて。出来るだけ、反逆心がありそうなのが良いな」
ろくは、にっと笑った。