私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
俺は、正直ほっとけなかった。
十歳のガキがそんな目をしていて良い筈がない。
だから、隊長を追いかけては、ひょうきんに話しかけ、殴られたり、蹴られたり、文句を言われたりした。
そのかいあってか、随分懐いてくれるようになった。
信頼してくれるようにもなったし、俺も信頼している。
俺にとってこの人は、可愛い息子や弟のような存在であると同時に、とても尊敬する上司なのだ。
だけど、隊長は独りでいたがるふしがある。けれど、多分そんな事をしてはいけないんだ。
この人はきっと、誰かと居るべきなんだと、俺は常々思っていた。
今まで一緒に住もうと言っても蹴られるだけだったから、せめてメイドをと思って無理やり派遣させてたけど、それも一ヶ月足らずでクビにしたような人だ。
だから、ゆりちゃんと暮らしている、しかも自主的にと知った時、俺は心底嬉しかった。
「隊長……」
「ん?」
「隊長って、ゆりちゃんのこと好きっすよね?」
「……は?」
目をぱちくりさせながら、隊長はやっと巻物から目を離して俺を見た。
そして、頬が紅潮していく。
「はあ!? なに言ってんの。そんなわけないだろ!?」
「またまたぁ」
「うるせえ、ハゲ!」
隊長はぷんすか怒りながら、フードを引っ張った。
これはこの人の癖だ。
恥ずかしい時、図星の時、緊張してる時、フードを引っ張って顔を隠そうとするんだ、この人は。
「じゃあ、なんで一緒に住んでんすか?」
「魔王のために決まってんじゃん」
言い訳しちゃって、まぁ……。
この人がその気なら、もうとっくに魔王を手にしてるだろーに。
なにせ、この人は長期戦があんまり好きじゃないからね。
わりとせっかちなんだよな。
ようはあれだ。
恋に落としたとしても、もう手ひどく振る事ができないわけだ。
それに、疑問に思ってた事だけど、ゆりちゃんを傷つけたとして、どうやってその力を操るのか……。
風間の話じゃ、魔王の器の心が空になれば、雪村が作った呪符で操れる的な事だったけど。
ちょっとばかし、疑わしいところがある。いくらあの一族だからって、そう簡単に人の心って操れるもんなんかねぇ……。まあ、そういうのもあって、踏み込めないってのもあるんだろうけど……。
でも以前の隊長なら、そんなことお構いなしにガンガン攻めて行ってたはずだ。
目的のためなら手段を選ばない。誰がどうなろうがおかまいなし。以前の隊長はそういう人でもあった。
それが、ゆりちゃんが傷つかないように配慮したりしちゃってんだよなぁ。
本当は心配だから、バイトも反対だったくせに。俺は知ってるよ。
バイト先がどんなところか心配で、こっそり見に行ったことがあること。
彼女のバイト先から家までのルートの見回りを増やすように警察(サッカン)に圧力かけたのも。ぜーんぶ知ってる。だって、俺隠密得意だからな。
家柄っていう情報網もあるし。
それに何より、倭和国の屋敷でのあの行動が全部物語ってる。
「またまたぁ。福護石(ふくごせき)あげたくせにィ」
「……」
俺がにやつくと、隊長はぴたっと動きを止めた。
……あれ? なんか、ヤな予感。
「……なんで、知ってんだ?」
ギギィ――と、音を立てそうなほどゆっくりと振向きながら、目を見開く隊長……怖ぇっ!
「いや、あれ? 言いませんでしたっけ?」
「ぼくが? お前に? 言うわけないだろ!」
「ひええ!」
思い切り怒鳴られて、思わず縮こまる。
「どっから見てた!? なにを見た!? 言えっ!!」
「そんなに凄まないで下さいよぉ――痛い、痛い!」
へらっと苦笑すると、隊長は俺の頬を思い切りつねった。
「分かりました、分かりましたって! 言います!」
慌てて言うと、隊長は手を離した。
「ゆりちゃんが毛利の野郎に拉致られて連れて来られてるところからっす。俺、騎乗翼竜の収容小屋にいたんで。偶然毛利の側近が怪しい動きしてたの見つけたんで、後つけてたんす。そんで、隊長がゆりちゃんに福護石をつき返されてるところを見たってわけです」
「……お前……そんな前から見てたんだったら、彼女奪還するの手伝えば良かったろ!」
「う~ん……でも、ゆりちゃんがあまりにかっこ良くて」
隊長はほとほと呆れたと言うように、大きくため息をついた。
そのまま俯きかげんで、俺をチラリと流し見る。
ん? なんだ?