独占欲強めな弁護士は甘く絡めとる

 事務所内の先生方からつけられている異名は『懐かない美人猫』だ。美しいからといって不用意に手を出すと、容赦なく引っかかれる。

 そんな彼が、自分の部屋にいることが不思議でならなかった。しかも、一夜をともに過ごしたなんて。記憶がないせいか、実感も湧かない。

 玄関に向かっていく彼を見送る。光沢を放つ革靴に足を差し込む背中には、オフィスにいるときのような尖った気配をあまり感じない。

 振り返った彼と目が合った。静かな瞳に見つめられるだけで、頬が熱をもつ。

「……だから、赤くなりすぎだろ」

 呆れたように言って、彼は私の頬をきゅっとつまんだ。指先から感じる体温に、ますます心臓が騒がしくなる。

 オフィスで一緒に仕事をすることはあっても、こんなふうに体に触れることなんてない。

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