一夜からはじまる恋
帰宅してから二人は引っ越しの準備を始めた。
ほとんど業者に頼むことにして必要最低限のものを荷造りする。

湊がキッチン用品を段ボールに詰めているとき樹はリビングにあった棚のものを段ボールに詰めていた。

なるべく見ないようにしているのに、そこには陸との思いでのものがあふれていて、湊に気づかないように樹はそっと涙を拭った。

「・・・!」
突然樹は後ろから抱きしめられて振り返ろうとした。
「そのままでいい」
湊がいつの間にか樹のそばにいた。
「言っただろ?どんな時も、樹をまるごと抱きしめるって。」
湊にはなんだってお見通しだ。
出会ってから間もないのに。お互いに知らないこともまだまだたくさんあるのに。
どうしてこんなに私をわかってくれるのだろう。
そんなことを考えながら樹の涙は微笑みに変わった。
< 173 / 349 >

この作品をシェア

pagetop