一夜からはじまる恋
「体調は?」
「大丈夫です。失礼しました。」
樹は湊の横を通り会議室から出ようとする。
そんな樹の腕を湊が引き寄せた。

「逃げないでほしい」
「私は用がありませんので。」
冷たく話す樹に湊が切ない表情を見せる。

なぜこの人の表情に自分は惹きつけられてしまうのだろうかと思いながらその手を振り払えない自分が情けなくなる。
「俺だってお腹の子供の父親かもしれないだろ?それは紛れもない事実だ。」
「そうだとしても関係ありません。」
「可能性を認めたな?」
「ちがっ!」
「君を興奮させたいわけでも、怒らせたいわけでも困らせたいわけでもないんだ。」
バツが悪そうな、叱られた子供のような表情の湊に樹は小さくため息をついた。
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