追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました


 あれは十一歳の秋の事だ。この頃になると、俺は雨足にもよるが獣化時に意識を保つ事を覚え始めていた。
 そんな中で、皇帝である父と俺のセント・ヴィンセント王国表敬訪問は決まった。俺ははじめての国外訪問にわくわくしながら故国カダール皇国を経った。
 ところが、セント・ヴィンセント王国に到着した俺に、立て続けの不運が襲った。
 まず、王都到着と同時に、向こう一週間は晴天続きと予想されていたはずの空模様が一転した。突然の雨が王都を襲い、俺は獣化を余儀なくされた。
 更なる不運は宿だった。万が一に備え、父の命で駐在大使に確保させていた宿が、なんと集団食中毒を起こして全館封鎖となり、宿泊できなくなってしまったのだ。
 それでも隣国王に獣姿をさらすわけにはいかず、父や同行の側近らは両国トップ会談という一大イベントに沸き立つ王都で、宿という宿を端からあたり、なんとか安宿に空室を捜し当てた。
『かなり草臥れておるが、宿を取れただけでも不幸中の幸いだ。国王陛下には、其方は体調不良で同行していないと伝える。王宮滞在中に儂がここに様子を見に来るのは難しいかもしれんが、その時は代わりの者を様子を見に寄越す。其方は雨が上がるまで、大人しくこの宿におるのだぞ』
『ガウッ(はい)』
 こうして俺を安宿に残し、父たちは王宮に向かった。
 一匹残された俺は別段やる事もなく、粗末な寝台に体を横たえた。寝台はじっとりと湿っており、なにやら不快な臭いがした。しかし剥き出しの石床には絨毯一枚敷かれておらず、俺は仕方なく出来るだけ口呼吸を心がけて、そのまま眠りについた。
 ……かゆ、かゆかゆ。……ん? なんだか、痒いな?
 ……ぽりぽり。……かゆ、かゆかゆかゆ。……ぽり、ぽりぽりぽり!
 な、なんだ!? ずいぶんと痒いぞ!?

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