追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

 俺は耐えがたい痒みで、つかの間の眠りから跳び起きた。
 ――コンッ、コンッ。
『カーゴや、おるか? 国王陛下に到着の挨拶を済ませた後、歓迎の晩餐式典までスケジュールに間があってな、軽い食事など持って……な!? どうしたカーゴ!? 全身が真っ赤ではないか!?』
 するとその時、タイミングよく「様子を見に来るのは難しいかも」と言っていたはずの父が現れた。
『キャウーン(父上、全身が痒いのです)!』
 俺は痒みにもんどりうちながら、一直線に父に飛びついた。
『……ふむ、しらみじゃな。そこかしこにくっ付いておる。やむおえん。カーゴよ、毛を剃るぞ!』
 俺の体を検分した父が告げた無情な一言に、ビクンッと体が跳ねた。
『キャウーンッ(それは嫌です)!』
 咄嗟に逃げようとしたのだが、一瞬早く父にむんずと襟首を掴まれて、俺はあえなく全身の体毛を剃り落とされた。
 銃弾をも通さぬはずの俺の体毛は、摩訶不思議な事に毛じらみの猛攻と、父の持つカミソリを前に抗う術なく完敗した。全身の毛という毛を剃り落とされた俺は、三分の二ほどに嵩を減らしていた。
 しかも毛じらみに皮膚をやられ、体中を赤く斑にただれさせた俺は、見るからにみすぼらしい風情だった。
 耳も尾っぽも、力なくペタンと垂れた。
『……なにやら大型の野良犬と言っても通用しそうじゃな』
 剃り終えた父がポツリと零した台詞は、いたいけな十一歳の少年の心を打ち砕くには十分だった。
『と、とにかくカーゴよ。儂は王宮に戻らねばならん。そこのサンドイッチを食い、元気を出すんじゃぞ! ではな!』
 父は慌ただしく客室を出て王宮に戻って行った。
 この時、一匹客室に残された俺の心はすっかりとやさぐれていた。
 ……俺が大型の野良犬だと? ……むしろ、好都合だ!!
 俺は甘んじて野良犬を装い、父の言いつけを破って客間の窓を飛び出した。


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