最後の1枚

協力


あの出会いから、林くんと石井くんとは、廊下で会えば挨拶や世間話はするぐらいの仲になった。
そんなある日、私のクラスに、訪問者が訪れた。

「小原さん!小原さん!」
「え、山岸さん。なんでここに?」
「先生からこれもらってさ!小原さんもどう!?」

そう言って、山岸さんが見せてきたのは、フォトコンテストの広告だ。
これは、誰でも応募できて、それに入賞した人の写真は、市民会館に掲示される。
そこそこ大きなコンテストだ。

「あー、いいね。でもこれ秋かぁ、今夏だし、秋になって葉っぱが紅くなるまで待たなきゃなぁ。」
「いやいやいや!それじゃ勿体ないよ!
せっかくだし!小原さんも、人物写真撮ってみない?」
「え?」

思わず顔を上げる。
山岸さんは、冗談など言っている風ではなく、この提案は本気なのだろう。

「え、いや、人物写真撮るの下手だし、私には、ちょっと無理かなぁ。」
「そんなのやって見なきゃわかんないじゃん!ね?もしかしたらいいの取れるかもよ?」
「でも、私誰撮ろうとかないし…」
「なら私、いつも部活にちょっとお邪魔させて貰って撮ってるの
一緒に行こう?」

なにを言っても食い下がる山岸さん。
これは多分諦めないと思う。

「分かった…行くだけ行ってみるよ。」
「本当!?ありがとー!小原さん!」

じゃ、放課後ねー!と言いクラスから飛び出していく山岸さん。
本当に明るい人だ。
私とは正反対。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
放課後になって、山岸さんがクラスに来て私を連れていく。
カメラを取りに行こうと思ったのに、なぜか山岸さんの手の中には私のカメラがあった。

「こんにちはー!今日は同じ部活の子も連れてきましたー!」

元気に扉を開けた山岸さんは、いつも同じように入っているのか、みんなまた来たのかーと声を上げる。
なんの部活なんだろう。そう思って覗き込むと、ひと目で分かった。

「男子バレー部…」
「山岸、同じ部活の子って…
って、お前か。小原」
「こんにちは、石井くん。」

Tシャツの襟で汗を拭う石井くん。
そういえばクラスの女子が、前に石井くんと林くんどっち派か言い争っていたな。
私はそういうのよくわからないけどきっと顔は整っているのだろう。
多分クラスの女子が見たら騒ぐんだろうな。

「お前が撮るのって風景写真じゃなかったっけ?」
「そのつもりだったんだけど、山岸さんが人物写真も撮ってみようってさ」
「あー、あいついつも強引だからな。」
「幼馴染か何か?」
「いや、同じ中学ってだけ。
山岸と幼馴染みなのは林なんだ」

へー。それは知らなかった。
確かに今だって仲良く話してるし、よく良く考えれば廊下で話してるのもたまに見かける。
「ふぅん、どこ中?」
「え、南だけど…」
「あれ?私も南中。同じ中学だったんだ知らなかった…」

がんばって中学時代の記憶を呼び起こしてみるけど、人が多くて、知り合いと一緒にいたわけでもなかった石井君たちはまったくもって思い出せなかった。

「あー、まぁ同じクラスとか隣のクラスじゃねぇと合同授業とかもねぇし、覚えてなくて案外当然なんじゃねぇの?」
「うーん…それもそうかもね」
「ほらお前ら!女子が来て嬉しいのはわかるが、練習始めるぞー!」
「「「うっす!!」」」

部長の声掛けにより部活が再開された。
ボールの跳ねる音、バレーシューズのゴムが鳴らす高い音、ボールが手に当たる音、相手に向けて発する掛け声。
バレー独特の色々な音が混ざり合い、体育館がひとつになっていく感じがする。
あ、いいな。単純にそう思った。

写真とか、コンテストとかそういうのを抜きにして、ここにいるのを楽しめる気がした。
すると、隣に座っていた山岸さんが立ち上がって体育館を出ていこうとした。

「どうしたの?」
「バレー部のお手伝い。ここマネージャーとか、いないから写真撮る協力してくれる代わりに手伝ってるの。」
「練習中はとらないの?」
「うん。私が撮ってるの、主に休憩中とかなんだ~。」

そうだったんだ…わたしも、いつ撮ろうとか考えてなかったから、手伝いに行こうかな。体育館から出ていく山岸さんに続いて私も体育館から出て行った。
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