最後の1枚

帰り道

山岸さんと一緒に、給水用のボトルに水を汲んだり、タオルを用意して、体育館に持っていくとちょうど、休憩に入ったのか、みんなこっちにタオルとボトルを取りに駆け寄ってきた。
ある程度渡し終えると、山岸さんはカメラを持って写真を撮り出した。

それに比べて私は、体育館の隅の方に座ってみんなの様子を見ていた。
いつもそうだ。空や風景に対しては、これだ、今撮らなくては。と思うのに、人に対してはその気分が湧いてこない。いつもその気分が湧いてから撮る私にしてみては、どうしても人を撮る気分になれない。

「撮んねーの?」
「え?」

ふと頭上からそんな声が聞こえた。
上に視線をずらすと、そこには石井君がいた。
ボトルを片手に持って、タオルを首にかけているところを見ると、運動部感があふれている。いや本当にバレー部なんだけど…
石井君はボトルの水を飲みながら私の横に腰掛ける。

「山岸はいつも休憩中に撮ってるけど」
「あー、なんて言うのかな。
私さ、いつもこれだ!って思わないと撮らないんだよね」
「ふーん…プロ意識ってやつ?」
「ち、違うよ!!そんなんじゃないし、それにきっとプロはどんな時でもいい写真撮るから…」

いたずらっ子みたいな顔を浮かべてからかってくる石井君にむきになって返す。
石井君がそういうことするとは思っていなかったから、意外だった。
今までは、呆れ顔や、無表情ぐらいしか見たことが無かったから少しいつもと違う表情に、顔に熱が集まるような気がする。

「そんなむきになる必要ねーじゃん」
「石井君が変なこと言うからじゃん!」
「小原ってそんな声荒げることもあるんだな。初めて会った時はもっとしゃべんねぇ奴だと思った。」
「喋るよ、私だって」

休憩が終わり、部活が再開される。
今日一日は、写真を一枚も撮らず、山岸さんと一緒にバレー部の手伝いをして終わった。
部活も終わって、一人で帰ろうと帰路についていると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、そこには山岸さんと、石井君、林君の三人がいた。

「三人ともどうしたの?」
「どうしたのじゃないよ!せっかく小原さんと一緒に帰ろうと思ってたのに先に帰っちゃうし…」

肩で息をしている事から走ってきたのかな?言ってくれれば待ってたのに。
それから、四人で帰って、途中からは山岸さんと林君と別れた。
話を聞くと、石井君はどうやら私の家の近所に住んでるようだった。
本当、何でこれで全然覚えてないんだろう…

「小原の家、どこ?」
「えーっと、個々の曲がり角曲がって三件目。」
「あ、逆だ。俺こっちの曲がり角。」

十字路の反対方向を指さす石井君。
どうやら本当に近所に住んているようだ。

「じゃあ、ここでお別れだね。ばいばい。」
「何言ってんだ、さすがに送ってく。」
「え、もう近いしいいよ。それに人もいるからそんな危なくないし。」

この時間帯は、部活から帰ってきた学生が多く、ちらほら他校の制服を着ている生徒も見かけた。

「いいんだよ。俺が送りたいから送るだけだ。」

そういって、私の手を引っ張って、私の家の方に進む石井くん。
そのまま結局、私の家まで送ってくれた。

「あの、送ってくれてありがとう。石井君」
「はいはい、俺が勝手にやったことだから気にすんな。」

ぶっきらぼうに言う石井君に思わず笑みがこぼれる。
なんとなく最初とイメージが変わった気がする。
最初はもっとクールな人だと思ったけど、練習を見ていると結構仲間の人たちと笑い合ってるし、何よりバレーをやってる時はすごく楽しそうだ。

「じゃあ、また明日」
「あぁ、またな。」
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