【番外編 完】愛を知らない彼
園田優子とは、以前付き合っていたことがある。
彼女から告白され、最初は断っていた。
それでも、何度も何度も来られ、終いにはダメなら自殺するとまで言われて折れてしまった。

でも、そんな風にして始まった付き合いは、長く続くはずもなかった。
彼女を好きにはなれなかった。

自分からデートに誘うことはなく、彼女に言われて仕方なく食事に行くぐらいだった。
彼女は僕の部屋に来たがっていたが、気持ちがないのに自宅に招くことも、彼女の部屋へ行くこともしなかった。

そんな僕の行動に業を煮やしたのか、食事を済ませた別れ際に、突然キスをされた。
それでも心を動かされることはなく、彼女の誘いにはのらなかった。

付き合い始めてから一ヶ月半経った頃、残業を終えて帰宅していると、ホテルから腕を組んで出てくるカップルを見かけた。
優子だ……
自殺までほのめかして付き合いを迫ってきた彼女だったけど……やはり人の心なんて信じられないものだな。
いや、彼女の気持ちに応えられないまま付き合い出した自分が悪いのか。
いろいろと思うことはあったものの、これで彼女と別れられると、ホッとする気持ちの方が大きかった。
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