サヨナラのために


それから毎日、孝宏先輩は放課後になると教室にやってきて、私の作業を手伝ってくれた。


気分屋そうだし、続かないと思ったから少し驚いた。


でも、自分が窮屈に感じていないことに気づく。


なんでもない会話は途切れることがなく、気まずい思いもしないけれど疲れることもない。


孝宏先輩の横顔をチラリと盗み見る。


能天気そうなその笑顔の裏に、この人は一体どれくらい自分を隠しているのだろう。


「…あのー、美羽ちゃん?そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど」


絵を見ていたはずの先輩の顔が、いつのまにかこちらに向いていた。


爽やかな笑顔。


「…先輩って、いい人だなって思って」


「えっ何突然、デレ?ここにきてデレ!?」


「…うるさ」


「とかいって、俺のこと結構スキだよね、美羽ちゃん」


ニヤニヤしながらそう言ってくる先輩に、私は盛大なため息をつく。


本当、バカだし。掴みどころがなくて、こんな風に話してても多分心の中には絶対に人を踏み込ませない。


「…まあ、でも、結構スキですよ」


敵わない初恋の話をしてくれた時、少しだけ、その心の中を見れた気がした。


先輩の見えない心の中に、惹かれているのは確かだ。

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