極上蜜夜~一夜の過ちから始める契約結婚~
「ローマには、昨日着いたばかりですか。観光初日で、災難でしたね」


私が書いた書類に目を落とし、ふっと眉を曇らせる。
いつも朗らかな春馬さんは、そういうどこか憂いを帯びた表情を、あまり見せなかった。


「え、え」


私は、ぎこちなく相槌を打ちながら、努力して頬の筋肉を動かした。
辛うじて『笑った』といえる表情を、久しぶりに作れたと思う。


彼は書類から目を上げ、ちらりと私を見遣った。
宙の真ん中でバチッと目が合ってしまい、私は慌ててそっぽを向く。
どこに視線を持っていけばいいか困り、結局目を伏せた。
そうすると、彼が組み上げている長い足が視界の真ん中を占領する。


さっき声をかけてくれた時、身長百六十二センチの私が喉を仰け反らせるくらいだったから、優に百八十センチはあるとみていい長身。
春馬さんは百七十センチちょっとだから、見上げる時の角度は、もうちょっと緩やかだった。


この人は、無駄な肉がついていなそうなスレンダーな身体つきだけど、肩幅も背中も広く、私を軽々と抱き上げてくれた腕は力強かった。
春馬さんの方が、少し華奢な体型かもしれない。


彼を踏み込んで観察して、春馬さんとの違いをいくつも見つけ出すうちに、私の胸の変な高鳴りは徐々に治まってきた。
今度こそしっかり顔を上げて、今目の前にいる外交官の彼をまっすぐ見つめる。
すると。
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