極上蜜夜~一夜の過ちから始める契約結婚~
窘めるような口調で苦言を呈していた彼も、口を噤んできゅっと唇を結んだ。


「こんな……こんなボロボロの時に、一人旅なんかやめときゃよかった。せっかく憧れのローマに来たのに、陽気な人たちを見ていても心は晴れないし、むしろ独りぼっちを痛感するだけで」


膝に突いた手に、ぎゅうと力を込める。
力が入りすぎて血が失せ、白くなった拳を、彼が視界の端に映しているのが感じられる。


「わ、私みたいなのがいるから、外交官さんの仕事も増えるし、迷惑ですよね。ほんとに、すみません」

「どう見ても、一人旅は不向きだと思ってましたが、失恋して傷心旅行……ってとこですか」


ズバリ言い当てられ、私はビクッと肩を震わせた。
それには答えず、ただ恐る恐る顔を上げる。
目が合う前に、彼の方が私から視線を逸らした。


「この国を楽しめないなんて、もったいないな。……これだけあればいいですか」

「……え?」


上着の胸ポケットからセンスのいい黒革の財布を取り出し、カラフルな色合いの紙幣を抜き取る。
それを、私の視界の真ん中に入るように、テーブルの上に滑らせてきた。


ユーロ札は数字が大きく印刷されているから、パッと見ただけでいくらかわかる。
百ユーロが十枚、千ユーロ。
日本円に換算すると、約十二万円といったところ。
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