極上蜜夜~一夜の過ちから始める契約結婚~
だけど、私は、彼の上着の袖をちょんと摘まんで、腕時計を隠した。


「……門脇さん?」

「あの……結局ご馳走になっちゃって。夕食をご一緒するくらいで、お礼になったんでしょうか……?」


俯いて訊ねる私を、成瀬さんが訝し気に見下ろしている。
それほど強くないのに、楽しくワインを飲んだせいで、私は多分、自分で思う以上に酔っていたんだと思う。
このままホテルに戻るべきだとわかってるのに、頭上から「え?」と聞き返され、思い切って顔を上げた。


「だって、私ばっかり楽しませてもらって。だ、だから、成瀬さんが私と取る夕食を、極上の時間って言ってくれるなら、明日も明後日も……」


言っている途中から、成瀬さんの影が降りてくるのは気付いていた。
だけど、言い切る前に唇を塞がれたら、驚いて大きく目を見開いた。
少し乾いた彼の唇は、私のそれを数回しっとりと啄み、最後に余韻を残すように押し当てて、離れていく。


「……なる、せさ」


彼の行為を受けている間ずっと、瞬きもせずに開いていた目。
まっすぐ視線を返されて、私の胸がドクッと沸き立った。


「これでいい。ご馳走様」


成瀬さんは目を細めて口角を上げ、ちょっと不遜な笑みを浮かべる。
私は呆然として、彼から目を離せずにいた。


これでいい、って。
明日も明後日も会いたい、と思ったのは、迷惑ってことだろうか。
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