大嫌いな君と再会したら…
11時過ぎまで歌い、カラオケ店を出た。

「岡田、家どこ?」

湯浅主任が尋ねる。

「大池(おおいけ)です」

げっ! うちの近所。

「じゃあ、平井を送ってやって。
駅からタクシーで帰っていいから」

と財布を出そうとする。

「ああ、主任、大丈夫です。
俺、送ってきますから」

楠さんが手を挙げて主任を制した。

ほっ
助かった。

と思ったのも束の間。

「いえ、今日、俺の歓迎会の幹事をして
くださったお礼に、送らせてください」

と一磨。

「そうだな。じゃあ、岡田、頼んだぞ」

にこにことご機嫌な主任は、財布から五千円札を取り出して一磨に握らせた。

マジかぁ…

私は思わず、心の中で脱力する。

一磨め、余計な事を。


私たちは、電車に乗り帰路に就く。

「平井さんちはどこなんですか?」

電車の中で一磨に聞かれた。

「三和(みわ)」

「あ、うちのひとつ手前ですね」

一磨は相変わらず、愛想笑いを崩さない。

最寄駅に着き、電車を降りようとすると、一磨に手を握られた。

何!?

驚いて一磨を見ると、一磨はにっこりと笑った。

「平井さん、結構飲んでたから、足元、気を
つけてくださいね」

思い出した。

こいつ、無駄に気遣いができる奴だった。

「大丈夫」

そう言っても一磨は手を離さない。

私は、一磨に手を引かれて電車を降り、階段を下りた。

タクシー乗り場まで来ると、長蛇の列ができていた。

「歩きましょうか」

一磨はそう言って、私の手を握ったまま歩き出す。
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