密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「やりましたね、ルイス様!」

 既にジオンは拳を突き上げ祝賀ムード。
 主様の瞳は優しく私を見つめている。
 え、な、なに!?
 完全に私だけが取り残されていた。

「ずっと君だけを愛していたよ。伝えるのが遅くなってしまったね。ごめんね」

「そんな、謝らないで下さい!」

「じゃあ結婚してくれる?」

「え、あ、はいっ!?」

 私の顔はトマトよりも赤くなっているだろう。気遣わなければトマトは握り潰してしまいそうだ。
 幼い頃に魅了された青い瞳が目の前にある。ぼやけるほどの近さを感じた時には唇に温かなものが振れていた。
 この世界の気候は前世よりも穏やかで、夏も比較的涼しいはず。それなのに、目が回るほどの熱さが一瞬にして駆け巡る。逆上せてしまいそうなほど、身体の内側に熱を感じた。
 心臓はあり得ないほど早く鼓動を刻み、目を開ければ真っ赤な頬に主様が触れる。私は発熱を疑われていた。
 主様の手は緩く、簡単に振りほどくことが出来るでしょう。まるでいつでも逃げて構わないと言われているようでした。
 私に遠慮でもしているのでしょうか?
 私が身を引くことなどありません。今度こそ、私は目をそらさずに主様だけを見つめて答えた。

「あらあら、お幸せにねー」

 どこからか、モモからの祝福が聞こえる。声には慌てた様子がなく、この状況に取り乱しているのはいよいよ私だけらしい。
 この状況を、ジオンにもモモにも見られている。けれどそんなことは気にならないほど、私の視界も頭も主様で埋め尽くされていた。
 こんなにも近くで触れ合えることが幸せでたまらない。奇跡のような幸福に、やはりこの方との出会いは私の運命だったと泣きたくなった。

「たくさんご馳走させてください。主様」

 そう口にすれば、主様は笑顔で続きを待っていらっしゃる。
 そこで失態に気付いた私は慌てて訂正する羽目になった。あれほど密かに練習していたはずが、驚きの連続で消し飛んでしまっている。

「たくさんご馳走致します。ルイス様」

「ありがとう、サリア」

 こうして元密偵は無事再就職、もとい永久就職を果たしたのです。
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