密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「これでいいんだよ。俺は王様になりたいわけじゃない。陛下が兄上を選ばれたというのなら、俺はそれに従おう。たとえこの先、何が起ころうとね」

 何が起ころうと……
 あえて突き放すような言葉を選ぶ主様を少しだけ怖く感じた。

「邪魔者はすぐにでも城を追われるだろうね。俺の予想ではリエタナたりかな」

「リエタナ!?」

 またしても私は口を覆っていた。そうしていなければ悲痛な叫びが抑えきれそうにない。
 リエタナとは、ここ王都から遠く離れた辺境の地で、主な収入といえば農作物くらいだろう。
 私はこの世の終わりほどの絶望を感じているけれど、主様が優雅な笑みを絶やすことはなかった。

「だからその前に、今日まで尽くしてくれた君たち恩を返したくてね。こうして集まってもらったというわけさ。王子であるうちに、この権限を駆使して希望の職種に紹介状を書かせてもらうよ。どんな場所でも、どんな相手でもね」

 主様の従者であるジオンと、主様から個人的に雇われていた私は、このまま城に残ることは難しい。いまのうちに身の振り方を考えるようにとのお達しだ。
 主様はどんな場所でも、どんな相手でもと仰られた。つまり仕事を選ばなければ城に残れる道もあるということだ。

「おそれながら申し上げます」

 何か希望があるのか、ジオンはすかさず声を上げていた。

「継承権を剥奪されたところで自分の心は変わりません。ですからどうか、終焉の地までのともをお許しいただけないでしょうか」

「はあ!?」

 この男、堂々と抜け駆けしただと!?

 私は自分でも意識する前にジオンを睨みつけていた。とても許せる所業ではない。
 本当ならすぐにでも問い詰めたいところではあるが、それよりも問題は主様の返答だ。素早く振り返った私は息をのんで行く末を見守る。
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