密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
 両親のそばからから離れていた私は人相の悪い大人たちに囲まれ、次の瞬間には荷物のように馬車へと押し込まれていた。
 抵抗するには勝ち目もなく、泣きわめいただけ大人たちは歪に笑う。酷く揺れる粗悪な荷馬車で運ばれる私に待っているのは最悪の未来だろう。
 
 そんな時、私はふと馬車が止まっていることに気付く。外からはざわざわと、大人たちが揉めているような気配が伝わっていた。

 これは最初で最後のチャンス。そう思った私は逃亡を試みたのですが、荷台から飛び降りたところであっけなく転倒。みっともなく地面に倒れこみ、見つかる前に早く逃げなければと焦ってばかりいました。

 そんな時です。頭上に影が差しました。

 なんという絶望でしょう。見つかってしまったと思いました。私の覚悟など所詮は無力にすぎないと、嘲笑われている気がしたのです。
 逃亡を試みた私を大人たちは許すはずがない。きっと手ひどい仕打ちをうけるのだと、迫りくる恐怖に青ざめた顔で視線を上げました。
 そこには怖ろしい形相を浮かべた大人たちが待ち構えていると、震えていたのです。

 ところが……

「綺麗……」

 そこには見たことのない少年が立っていたのです。
 恐怖はどこかに消え、自然と零れていました。

 月光に照らされたプラチナブロンドは青く神秘的な輝きを放ち、瞳も宝石のような美しさを感じさせるものでした。
 全てが作り物であるように、まるで月の化身とでもいうのでしょうか。こんなにも美しい人を私は目にしたことがありません。
 背後に輝く月ですら少年の引き立て役。となれば機的状況も忘れ、見惚れてしまうのも仕方がないことでした。
 呆然と言葉を失う私に向けて、少年は手を差し伸べてくれました。心配そうに名も知らぬ少女を見下ろしながら、怪我はないかと気遣ってくれたのです。

 もうお気付きですね?
 そうです。これこそが私と主様との出会い!
< 2 / 108 >

この作品をシェア

pagetop