密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
 おそらく『運命』とはこのような場面を言い表すのでしょう。たとえ違ったとしても私が運命と言えばこれが運命です。
 こうして運命の出会いを果たした私は直感的にこの人に必要とされたいと願うようになっていました。
 それはさながら一目惚れの様に……
 失礼、少々話が逸れてしまいましたが。
 とにかくその日から、あの方のために生きることが私の喜びとなったのです。
 この身が朽ち果てるその日までおそばにいたい。あの方の役に立ちたい。必要とされていたいのです。

 だってそうでしょう?

 こんなにも素敵な人の役に立てたのなら幸せに決まっています。必要としてもらえたのなら、それは至上の喜びです。そばに置いてほしい。生涯をかけてお仕えしたいと早くも心に決めていたのです。

 その後、気を失った私は主様たちの乗る馬車で近くの村へと送り届けられたわけですが。

 まあ、普通はここでお別れの良い話で終わりますよね?

 しかしそうはいきません。これほどの素晴らしい出会いを簡単に終わらせてなるものですか!
 渋る主様に食い下がり、採用試験をクリアすることでなんとか現在の地位を確保したというわけです。

 え? 開始早々いきなり感情が重い? 

 そうでしょうか。だってもう、あんな思いはしたくありませんからね。就職先は幼いうちからしっかり決めておかないと……
 不思議な話ではありますが、強く念じておきながら私にはその言葉の意味するところがわかりませんでした。
 間違いなく私の心の奥深くから湧きあがる気持ちではありますが、どうしてそう思うのか、理由だけがわからないまま、主様との幸せ主従ライフは過ぎて行きました。

 前述の通り危険の多い仕事ではありますが、やりがいのある仕事です。
 実績といたしましては、これまで幾度となく主様が悪と判断された貴族や大臣を排除するための証拠を集めてまいりました。
 自分で言うのもなんですが、私は密偵としては優秀な方だったのでしょう。今日まで無事に職務を遂行してきたことが何よりの証です。

 しかしながら現在、私はこれまでに経験したことがないほどの窮地に立たされている。
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