身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

「染谷を私が継ぐってこと? それはまあ、成り行きしだいかしら……結婚相手がそう思ってくれるかはわからないし、今はまだ予定もないし」
「そのこともだけど……」

 そこまで言って、琴音は言葉を止めた。閑さんのことはもういいのかと、聞いて一体どうしようというのだろう。

 今日の可乃子の様子を見ていて、彼女にとって閑とのことはすでに過去のことなのだろうと表面上は感じられた。何しろ、もう十年近く前のことだ。今更、可乃子は気にしていないのかもしれない。そう思いたい。

 それきり黙りこくった琴音を、可乃子はしばらく不思議そうに見つめていたが、急に理由に思い至ったらしい。

「琴音、もしかして覚えてたの? 私と閑が……」
「覚えてるよ、当たり前でしょ。別れたってことも聞いたけど、複雑じゃないのかなと思って……」

 そう言うと、可乃子は今日初めて気まずそうな表情を浮かべる。琴音も気まずい。聞くんじゃなかった。複雑だと言われても、例えば最悪、今も本当は好きだと言われても、もう琴音には、この結婚は止められない。

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