身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 閑と可乃子が、ふたりで歩いているときに。琴音には入り込めなかった、子供の頃にはもう戻りたくないと。閑の隣に可乃子がいることが、嫌だった。

 気付いてしまった。結婚が決まってからずっと、敢えて可乃子の存在を頭から追い出していたことに。ふたりが並ぶ姿を見るのが怖くて、再会する日のことを考えないようにしていた。閑の口から姉のことを聞くのが怖くて、不自然なくらいに避けていた。

 だって、何を聞けばいい。付き合っていたふたりのことなど、聞いてしまったらきっと苦しくて仕方が無くなる。

 どくん、どくんと嫌な具合に重い心臓の音を聞きながら、可乃子の返事を待つ。
 彼女は、くしゃりと短い髪をかきあげて、苦笑いをした。

「……そのことは、もう忘れて」
「え?」
「私も、うん。……あんまり、思い出したくないから」

 可乃子にしては、歯切れの悪い物言いだと感じる。別れた経緯などは聞いてないけれど、あまり過去の恋のことなど詮索されたくないのだろう。

「ね? それに、琴音もその方がいいでしょ? いいじゃない、今は随分、閑に特別扱いしてもらってるみたいだし」

 急に姉の表情が、人をからかう悪戯なものに変わる。美人はそんな表情すらも色っぽく感じてずるい。
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