身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
翌朝に可乃子はここから仕事に出かけて、それきり結婚式まで姿を見せなかった。仲直りするような余地もなく、可乃子の方から連絡してくることもない。
閑とは会えないものの細目に連絡がきたおかげで心は落ち着いて、緊張はするものの明るい気持ちで式の当日を迎えた。
ただ、姉の顔はなかなか見れなかった。目を合わせるのが、怖くなってしまったから。
六月初旬、晴れた佳日。
神社に入場する前、控室に待機しているとき。母親が初めて、小言も注釈もなく、ただひとこと琴音を褒めてくれた。
「おめでとう。綺麗よ」
琴音には口うるさい両親。それはすべて、姉と比べて頼りない琴音を心配してのことだとは、それなりに理解していた。
「ありがとう、お母さん」
ほろりとひとつ涙が零れて、化粧が崩れると怒られるかと思ったら、母親はだまってハンカチを目元に当ててくれた。
白無垢に身を包み砂利を踏みながら境内を歩く。斎主、ふたりの巫女の後に閑と共にならんで進む。神社の一般客からひとつふたつ、祝福の言葉と拍手が聞こえた。