身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
『絶対見てるだけじゃなくて一緒に入りたがるでしょ?』
可乃子は呆れた声を出す。今にも泣きだしそうなほど唇を戦慄かせている幼稚園児を、閑は放置していく気にはなれず。
『おいで。僕と一緒に石投げする?』
手を差し伸べると、それまで暗かった目が急に輝いて満面の笑みを浮かべる。こちらが面食らうほどの正直さで、閑の手に飛びついてきた。
『する!』
琴音の手を握って、可乃子の方へと一緒に歩き始めると可乃子も仕方がないというように笑った。
『川に近づきすぎちゃダメよ』
『わかった! お姉ちゃんありがとう』
別段、可乃子は妹を邪険にしているわけではない。ただ、妹のお守ばかりではつまらないのだろう。
しかしひとりっこの閑からすれば、妹のような存在に甘えて縋られるのは寧ろ可愛らしくてしょうがなかった。
『閑ちゃん!』
きゅっと握った小さな手に、何度か引かれて琴音を見おろす。
『石投げってどうするの? 投げるだけ?』
『んー……川に着いたら教えてあげる』
そう答えると、急にその場にしゃがみこむ。どうしたのかと思ったら、足元に転がる石を片手で拾っていた。
『石、いっぱい集めて行く!』
『川にもいっぱい落ちてるよ』
その間も、ずっと決して繋いだ手を離そうとしない。そんな様子には、ひたすら庇護欲を擽られる。
子供なりに、守ってやらなくちゃと何度も思ったことを覚えている。
結局川遊びについていったことがバレて母親に叱られて、小さくなって目に涙を溜めている様子にも庇わずにはいられなくて。
『僕が、行こうって言ったんです。染谷のおばさま、ごめんなさい』
『私もいいって言ったの。ごめんねお母さん』
可乃子とふたりで琴音を庇って、それが三人のいつもの姿だった。