身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 二宮と染谷の約束に関することを、可乃子と琴音は知らない様子だったが、閑は知っていた。
 聞かされたのは小学校の高学年に入る頃だ。その時にはもうすでに亡くなっていた、友人との古い約束を祖父から、父親からは企業の都合という形で。

 母親はそういった事情よりも、子供同士の交流がどうなるかを単純に楽しんでいるようだった。

『閑は、可乃子ちゃんと随分気が合ってるけど、琴音ちゃんにもすっかりなつかれてるし、難しいところねぇ?』
『……何言ってんの』

 明らかにからかっている口調で子供になんてことを聞くんだと思いながら、適当に聞き流す。ませた自分にはちゃんと意味がわかっていて、敢えて素知らぬふりをした。

 けれどその時ふっと頭に浮かんだのは、一生懸命に伸ばされる小さな手と、腕の中に飛び込んでくる輝かんばかりの笑顔だった。

 ――閑ちゃん、あのね。

 小さなあの子が、可乃子のいないときにこっそりと〝お願い〟をしてきたことがある。

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