身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 黙り込む琴音を、三輪はしばらく見つめている。何を悩んでいるのかはわからないだろうが、心中それなりに悩みがあることは察してくれたらしい。

「お見合い結婚も大変ですねえ」
「いや、大変ってことはない」

 悩みと言うには、贅沢だ。そのことに違いはない。
 つまり、これがいわゆるアレではないかと琴音は思う。

 ――幸せ過ぎて怖い、ってやつだ。

 ただしこれを言ってしまえば、ただの惚気じゃないかと笑われてしまいそうで、心の中にしまっておくことにする。その時、琴音のスマートフォンが着信を知らせた。

「あ。閑さんだ」
「お迎えですか?」
「うん。ごめん、帰るね! 三輪さんは帰りは?」
「ちょっと寄り道して帰るので、気にしないでください」

 ふたりで残った料理を綺麗に食べて、会計をして店を出る。駅の方へ歩いていく三輪を見送って、琴音は周囲を見渡した。

 朝、三輪と飲みに行く話をした時、帰りは車で迎えに行くと言って、聞かなかった。今日は閑も取引先との会食がある日で、夕食の心配はなかったのだが、疲れているのにわざわざ迎えに来てもらうなど申し訳ない。
 大丈夫だから、と何度も言ったのだが。

 今のところ、閑の車は見当たらない。この辺りは道が狭くて、一時的にも車を停めるのは難しそうだと、少し先の道幅の広いところまで琴音は歩くことにした。


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