身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 こんなに取り乱した閑を見たのは初めてだ。彼は、片手で前髪をかきあげてくしゃりと乱す。何やらぶつぶつと考え事をしているようで、そうしてまたはっとすると慌てて琴音の手を握る。

「すまない、違うんだ。まさかこんなに早くできるとは思わなくて」
「え、あ、やっぱりまだ早かった?」
「違う! そうじゃなくて、母親がなかなかできなくて、責められていたのを知っているから。そんな簡単に出来るものじゃないと、頭の片隅で思っていたのかもしれない。だから驚いただけで……」

 ぎゅうぎゅうと手を握りしめ、まくし立ててくる。あまりに必死で、その様子に嘘はないとすぐにわかった。

「ごめん、不安にさせた。すまない、ありがとう。嬉しいんだ、本当に。それと、病気じゃなくて良かった。……ああ、困ったな、言いたいことが多すぎて何を言えばわからない」

 謝罪と礼を並べ立てて、混乱仕切りの閑を見ていれば、難なく喜びが伝わってくる。それがおかしくて、嬉しくて、琴音の表情は自然と綻びながら、目元にじわりと涙が滲んだ。

「……よかった。嬉しい」

 心の底から出た言葉だ。琴音の表情を見て、閑がまた絶句する。それから、エコー写真を持っている手を自分の口元に当て俯いた。

 琴音の目から自分の表情を隠すような仕草だが、まったく隠れていない。耳まで全部、真っ赤に染まっていた。

「ああ、嬉しい。俺も」
「うん」

 どうやら、なかなかおさまらない顔の火照りは諦めたらしい。彼は、その手で琴音の頭を抱え込むように抱きしめて、もう一度耳元で「ありがとう」と言ってくれた。

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