身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 比べられることに慣れて、麻痺してしまっていたけれど。心の奥ではずっと、自分だけを見てくれることを期待していた。だからだろうか。

「さっきも言ったとおり、どうしても嫌なら回避できないこともない。だけど、俺は琴音がいい。琴音は、嫌か?」

 真摯な表情でそう言われ、琴音は小さくだけれど、頷いてしまった。閑の言葉は、自分にとってとても特別なものだったから。

「……嫌じゃ、ない」

 嫌なわけは、ない。元々、好きだった人なのだから、きっとまた好きになる。そう思えた。
 ただ、ひとつ胸に引っかかる。それを口にできなかった。昔とはいえ可乃子と付き合っていたのに、妹の琴音と結婚することは、ふたりにとって気まずいことではないのだろうか。
 両家共に結婚を望まれている。そして琴音は、嫌じゃない。

 テーブル越しに、閑が手を伸ばしてくる。琴音の指先にそっと触れたあと、きゅっと握り込まれて胸の奥まで苦しくなる。

「琴音に好きになってもらえるよう、努力する」

 ――失くしたはずの恋が、今度は実るのかもしれない。

 そう夢を見てしまったから、過去を暴くよりは、大切に育むことを選んだ。
 もう一度、しっかりと頷いた琴音に、閑はどこかほっとしたように、微笑んでいた。


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