身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
 レストランでの食事を終えた後、閑は琴音をマンションまで送ってくれた。その車内で、今後の予定を擦り合わせる。

 結婚は今から半年後の六月。それまでに、琴音はやはり今の仕事は辞めるべきだろうと、結婚の覚悟と一緒にそれも決めた。今の会社で、主婦業と両立は不可能だ。

 琴音がそう言うと、彼は申し訳なさげに頷いた。

「ありがとう。仕事頑張って来たのにな」
「もともと、ちょっと無茶な職場だったから。でも、落ち着いたらフリーで何かやってみてもいい?」
「もちろん、それは応援する」

 せっかく手に職があるのだ。完全に手放すのは寂しいし、何なら一度は迷ったクリエイティブの方をもう一度勉強してみてもいい。

 閑が、応援すると言ってくれたことに少しほっとした。車が琴音のマンション前に停車する。少々長い運転になり、肩が凝ったのか彼は少しだけ両腕を上げ、伸びをした。

「ありがとう、送ってくれて」
「いや。ここの何階?」

 彼が、窓の向こうのマンションを下から覗き込む。

「五〇五号室。狭いけど、角部屋だし気に入ってるの」

 答えながら、ふと考える。こういう時は『ちょっとコーヒーでも飲んでいく?』とか言うものだろうか。
 普通に昔馴染みとしての再会ならそれで良かったのかもしれないけれど、これから結婚する相手、つまり婚約者となると意識してしまい、言い辛い。

 いや、結婚するのだからこそ、早くお互いのことを理解するよう努力しなければいけないのだけれど。

 僅かな数秒でそこまで考えたとき。

「駐車場は? 近くにある?」

 そう尋ねられて、心臓が跳ねた。


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