身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 幼い頃から可愛いと思っていた。ひとりっこの自分にとって、琴音は初めて守るべき相手だった。
 庇護対象であることは今でも変わらないのに、再会した彼女は、以前のように簡単には守らせてはくれない。結婚前の職場のことや、この結婚を受け入れてくれた時も、感じたことだ。
 何か思うことがあっても一度飲み込み、自分の中で折り合いをつけようとする。幼かった小さなあの子は、しなやかな強さを持つ大人になった。家庭でも社会でも様々な理不尽に立ち向かってきたのだろう。

 いや、昔からずっと、彼女はそうだった。泣いて自己主張するなんて、幼い子供ができる精一杯のやり方で、立ち向かっていた。
 琴音は何も、変わっていない。自分が幼い頃に守りたいと思った、可愛らしいあの子のままだ。

 そのことが酷く嬉しかった。大人になった彼女と過ごしてそのことを実感するたびに、込み上げてくる熱い感情がある。彼女のことならなんでも知っていたいという、異常な独占欲まで沸いてくる。
 共に過ごす時間が増えれば増えるほど強くなるその感情に、あえて名前も付けずにいたけれど。

 ――愛してる。

 言葉にしてしまえば、あっさりと馴染んだ。今まで、特に意識したこともない、感情だった。夢見がちの十代や女性が口にする、なんとも頼りない概念だと思っていたものに初めて触れた気がした。
 それから、四か月後。
 真っ青な空に、白い木蓮が咲き誇る。色鮮やかなコントラストが目に心に沁みるような、暖かな春の日に娘は生まれた。風に沈丁花が香る、春はなんと美しい季節だろうと柄にもなくそんなことを思った。

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