身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
「うん、すぐそこの角曲がってすぐにコインパーキングがある」
――今から寄りたいとか言われたらどうしよう。
答えながらもサッと頭を巡ったのは、部屋の現状だ。仕事が休みの今はそれほど散らかっていないから、それは大丈夫だ。ただ、もてなすものは何もない。
コーヒーマシンだけはお気に入りの機械を入れてあるが……普段、自炊をする余裕がないので、食料品などは日持ちのする保存食くらいしか買っていないのだ。
時間的には、もうすぐ夕食の頃合いだ。レストランで食事を終えて、まだそれほど時間も経っていないから空腹ということはないだろうが。
簡単にでも何か食べたいと言われたら、出せるものがない。ああ、それに……自分の部屋で閑とふたりきりなんて、一体何をしゃべればいいんだろう。
弱った顔で固まってしまった琴音に、閑は苦笑いを浮かべる。緊張か警戒と受け取ったのかもしれない。
伸びてきた閑の手に、琴音が肩を竦める。咄嗟に目を閉じてしまったが、その手は琴音の頭の天辺に置かれ、くしゃっと軽く撫ぜただけで離れていった。
「じゃあ、次は寄らせてもらおうかな」
――次は。
そう聞いて、ほっとしたような拍子抜けしたような、複雑な気持ちで琴音はうなずいた。
「……片付けて、準備しときます」
「何の準備?」
「えっと、ご飯とか。おもてなしの?」
なんとなく意味深に聞こえた閑の質問に、琴音は首を傾げながらも素直にそう答える。閑はハンドルに片手を乗せ、上半身を軽く預けて琴音を見た。ゆっくりと、口角が持ち上がる。
「楽しみにしとく」
琴音には、酷く艶かしく見える微笑みだった。