身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
驚いて顔を上げる。もう自分の部屋の目の前で、そのドアの前に背の高いスーツの男性が立っている。
灯りの下だが、もう夜も遅い時間の通路では、少々不穏な雰囲気を感じてしまう。けれど、声は確かに彼のものだ。
「え……? 閑ちゃん?」
ぱちぱちと何度瞬きしても、そこに立っているのは確かに閑で間違いない。どうしてここに、という疑問が口にも顔にも出ていただろう。
すると、ぷは、と吹き出すような声を出して彼は笑った。
「琴音は、驚いた時は昔みたいに呼ぶんだな」
「あ。ごめんなさい」
またしてもうっかり子供の頃の呼び名を口にしてしまったことに気が付いて、思わず口を手で抑える。やはり、今の彼に『閑ちゃん』なんて呼ばれ方は似合わない気がするし、もうずっと会っていなかったのにいくらなんでも馴れ馴れしすぎるだろう。
彼本人は、その件に関してはなんとも思っていないようだが。
「別に、そのままでいい」
そう言って首を傾げ、じっと琴音を見つめる。しかし直後、彼は微笑みを消してしまった。
そうしてどこか不穏な表情で、ちょいちょいと琴音を手招きする。