身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
当日、約束通り昼過ぎに迎えに来た閑に連れられて訪れたのは、ドレスのデザインを専門にしているデザイナーブランドの店だった。
トルソーで飾られたウェディングドレスやカラードレス、壁に沿って誂えられたハンガーラックにもずらりと並んでいる。
「お客様は背が高くてすらっとされているので、マーメイドラインのドレスもいいと思いますよ」
昼食をココアのみで済ませてきた甲斐が多少はあったようだ。対応してくれている女性は店長兼デザイナーで、小柄で可愛らしい小動物のような雰囲気を持っている。
「でも、主役は花嫁ですからね。お好みのものを、どれでも着てみてください」
にこやかにそう促されて、おずおずといくつかのドレスに触れてみた。式の白無垢ももちろん楽しみだけれど、やっぱりドレスには無条件に憧れる。
「披露宴は、会社の人が多いって言ってたよね? だったら落ち着いた雰囲気の方がいいのかな?」
「気にしなくていい。自分が気に入ったものを選べばいいよ。色も白にこだわらなくていいし」
琴音の言葉に返事をしながら、閑が斜め後ろに立った。琴音が触れているドレスを、後ろから覗き込んでいる。
本当に、私、閑さんと結婚するんだなぁ……。
ドレスを見に来たことで少し現実味が出て来て、余計に心臓が跳ねてしまう。
今日の閑はテーラードジャケットに薄手のニット、グレーのボトムとラフな服装で、髪型もきっちりとは固めず眺めの前髪を左右に軽く流しただけ。俯いた時に目の前に落ちてくる髪を、雑にかきあげる仕草が壮絶に色っぽく、琴音は直視しないことを早々に決めた。