身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
 閑の言葉が本当だと言うのは、すぐにわかった。
 玄関に入り最初に出迎えてくれたのは、五十代ほどの女性だ。この邸が建ってから雇っている使用人だと閑が説明してくれた。閑の後に続いて進むと、縁側に面した廊下に出て、個人宅とは思えない日本庭園が広がっている。
「きれい……」
「父さんの好みでね。後で歩いてみる?」
「踏んだら怒られそう……」
「そんなことで怒らない」

 閑は笑いながらそう言うが、とてもじゃないけれどこれほど整った庭園に足を踏み入れる勇気はない。ああ、でも、飛び石の上で行けるところまでなら大丈夫だろうか、と見惚れていると、前方からパタパタと軽やかな足音がした。

「琴音ちゃん! やっと来てくれたのね!」

 声の方を見た途端、閑の母である優子の姿が目に飛び込んでくる。優子は閑をあっさりと通り過ぎ、琴音に抱き着いた。

「お、おばさま! お久しぶりです!」
「本当よー! 早く式の準備のこととかたくさん話したいのに、閑がちっとも連れて来てくれなくて! もう少し待て、ばっかりなのよ、呑気なんだから」
「すみません、それは全部私のせいで……」

 閑はもしかすると、琴音の仕事のせいでほとんど会えていなかったことを二宮家には何も言ってないのか。

 慌てて閑を見れば、素知らぬ顔をしている。そしてまた前方から、今度は閑の父が姿を見せた。

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